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文部科学省の外局で国の文化行政を担う文化庁が京都市内の新庁舎で業務を始めた。
中央省庁の移転は明治以来初めてだ。前例のない試みである。京都の国際情報発信力に期待すると同時に、従来の枠にとらわれない発想で、都倉俊一長官のいう「文化芸術立国」へ歩みを進めてもらいたい。
文化庁の京都移転は、東京一極集中の是正を図る目的のもと、安倍晋三政権が掲げた「地方創生」の目玉政策として、平成28年に決定した。
東京に集中する首都機能の分散化は、地方活性化や災害リスク軽減を図る上で重要だ。政府機関の地方移転はその呼び水になると期待されてきたが、肝心の中央省庁が及び腰で、一部の移転にとどまった経緯がある。「全面移転」となったのは文化庁だけだ。
9課のうち、文化財や宗教関係の5課が京都に移り、全体の約7割弱に当たる390人体制となる。一方、他省庁との連携も多い文化経済・国際課など4課の約200人は東京で業務を続ける。
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題対応などに追われる宗務課は当面、東京に残る。
文化庁は移転に際し機能強化を打ち出した。政策企画力の向上を図り、京都には新たに長官を補佐する「長官戦略室」のほか、食文化と文化観光を担う推進本部を新設した。これらが今後、どう機能するかを注視したい。
「本来文化は人々の生活に近いところにあるもの。霞が関から離れ、地方目線を得ることで気づきがあると期待したい」というのは同庁文化審議会委員なども務める同志社大の河島伸子教授だ。
京都および関西には多くの文化財があり、古社寺から茶道・華道といった伝統文化、アニメなどのサブカルチャーまでその蓄積は広く深い。文化行政の中枢を担う人々が机上から街へと目を向ければ、おのずと見えてくるものもあるだろう。
目指すのはそれが政策立案に生かされ、全国に波及するロールモデルだ。省庁移転の先行事例として、文化庁も地元・京都も成果が求められている。
折しも岸田文雄政権はデジタル田園都市国家構想を掲げる。文化庁移転を機に、行政機関の地方移転を一段と進められないか。不断の検討を求めたい。
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2023年3月28日付産経新聞【主張】を転載しています